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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(オ)96号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

原審の確定したところによれば、本件債務者組合が法人格なき組合であり、昭和二五年七月二三日当時及びその前後にわたり、その実体がいわゆる権利能力なき社団であつたことは、当事者間に争がない。思うに、権利能力なき社団の財産は、実質的には社団を構成する総社員の所謂総有に属するものであるから、総社員の同意をもつて、総有の廃止その他右財産の処分に関する定めのなされない限り、現社員及び元社員は、当然には、右財産に関し、共有の持分権又は分割請求権を有するものではないと解するのが相当である。(なお、法人格を有する労働組合については、労働組合法一二条二項により、民法七二条が準用せられ、組合解散の場合の残余財産の帰属については、民法七二条三項の準用により、定款をもつて帰属権利者を指定せず又はこれを指定する方法を定めなかつたときは、主務官庁の許可を得、且つ総会の決議を経て、其の法人の目的に類似した自的の為に其の財産を処分するものとせられているところと比照し、本件のごとき法人格なき労働組合についても、たとえ、所論のような解散に準ずる分裂の場合であつたとしても、その残余財産を脱退した元組合員に帰属せしめることについては、すくなくとも分裂当時における総組合員の意思に基づくことが必要であつて、これなくしては、脱退した元組合員が当然にその脱退当時の組合財産につき、共有の持分権又は分割請求権を有するものと解することはできない。)しかるに、本件においては、原審の事実摘示によれば、昭和二五年七月二三日当時又はその頃債務者組合の組合員全員により組合財産の処分に関し何らの決議をしたことのないことは当事者間に争がないのであるから、組合員全員の同意をもつて本件組合財産の総有の廃止その他の処分のなされなかつたことは明らかであつて、従つて、上告人外五一〇名の各自が、所論のように、当然に債務者組合財産の上に共有の持分権又は分割請求権を有するものということはできない。それ故、所論上告人外五一〇名の債務者組合よりの脱退が、所論のいわゆる分裂に該当するかどうかを判断するまでもなく、本件仮差押決定はこれを取り消し、債権者の本件仮差押申請はこれを却下すべきものであつて、これと結論を同じくする原判決は結局正当である。所論は採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔)

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